きものを解く
チョキッ・・・、チョキッ・・・、・・チョキッ・・・
きものを解いている。
仕付け糸もついたまま、仕立てられて一度も袖を通されなかった、きものを解いている。
この度ワンピースにリメイクされる予定のきものだ。
チョキッ・・・、チョキッ
まず襟から、・・・袖をとって・・・。少しずつきものの体(てい)ではなくなって、大きさの違う、ただの同じ幅の布切れになっていく。
きものはとてもシンプルな作りだ・・・と思っていたのは、きものを縫ったことがないからというのと、きものを解いたことがなかったときまでのことだ。
9寸8分の幅の反物から各バーツを裁断し、折り目をつけるべきところにきっちり折り目がついていて、必要な個所にはしっかりとあて布(?)らしき小さな布が縫い込まれている。袖下のカーブ部分を作る細かいギャザーもとてもきれいだ。ところどころには縫い糸とは違う色の糸で目印がつけてある。
ひと針、ひと針、丁寧な縫い目。当然のことながら、部分、部分で糸を使い分け、縫い方を使い分け、丁寧に縫ってあったものを・・・、チョキッ・・・、チョキッ・・・、チョキッ・・・。
今、これを元通りにしろっと言われたら、大変だ!
きものは複雑な作りだ・・・とわかる。
横でさっきまで本を読んでいた母が居眠りをはじめた。秋晴れの暖かな日差しを浴びながら。
チョキッ・・・、チョキッ。
ひと針、ひと針縫うのも、糸を解いていくのも、どちらも根気のいる、地味な仕事だ。
静かな空間の中で、糸切狭のチョキッ・・・、チョキッ・・・の音だけ。そうしているうちの想いはこれを作った人のもとへ。頼まれものの仕立てだったのか、娘のために母親が仕立てたものだったのか・・・、叔母さんが姪っ子のために?いずれにしても、これを仕立てた人もきっとこのきものに袖を通す人のことを想いながら、ひと針、ひと針丁寧に縫っていたのだろう。とても手先の器用な方だったのだろうな。
いつの間にか目を覚ました母に聞いてみる。
「ママもきもの縫ったことあると?」
「昔はみんな女学校で習いよったけんね。でも、私は縫いきらんね。私はだいたい家に持って帰ったら、おばあちゃま(母の母)がぜーんぶ縫ってくれよった。ほんとは持って帰ったらいかんちゃけどね。」
「先生にはバレんかったと?」
「バレとったと思うよ!」
今度は娘時代の母の姿を想った。舌をペロッて出している顔を想像した。
私も、このきものがワンピースになって、着ている人のことを想いながら、チョキッ・・・、チョキッ・・、チョキッ・・・。
さて、バラバラになった。糸くずを丁寧にとって・・・と。明日、この布切れに戻った「きもの」を洗って、秋空の下で乾かそう!